このたび、私たちは「日本ホリスティック教育/ケア学会(Japanese Society for Holistic Education /Care)」を創設いたします。本学会は、教育やケアへのホリスティックなアプローチ、およびホリスティックな志向を持つ教育やケアに関する研究を進め、深めます。
■ホリスティックという志向
人が人を支え育み教え看取りながら、共に学び成長し生を全うしていく営み―そういった営みとともにある教育やケアのありようを理解するのに、次に述べるような「ホリスティックholistic)」という観点や志向の持つ豊かな可能性を、本学会は重視しています。
まず、社会や文化、自然へと開かれた「ホールネス(wholeness)」の視点と、「いのち」の根源にまで深められた「ホーリネス(holiness)」の視点を持つこと。例えば、「ホールネス」には「グローバル(global)」や「エコロジカル(ecological)」、「ホーリネス」には「スピリチュアル(spiritual)」や「アート、美的(art, aesthetic)」といった志向が含まれます。
このような広がりと深まりのある包括的な視座から、人間を含む世界の多層的な相依相成のつながりを見ることを大切にしています。20世紀も終盤になって英語圏で生まれた「ホリスティック」というコンセプトは、世界各地の伝統的なものの見方を再発見しながら、国連・ユネスコ機関でも共有されるまでの広がりを見せ、グローバリゼーションとの緊張関係の中で、西洋的・近代的なパラダイムの見直しを求める国際的な潮流を形作ってきました。その歩みを継承しながら、私たちは、近代文明の価値(合理性、経済成長、自律、自然の対象化・操作)を偏重せず、それぞれの風土に根差した多様な文化の叡知をも大切にし、自分とは異なる価値観や、自らの内なる自然も肯定的に包括しながら、対立を乗り越えた多声的(ポリフォニック)な対話に基づくバランスのとれた人間観・世界観を探ります。「つながり」「包括性」「バランス」が、ホリスティックというコンセプトの三つの特質です。
■時代の課題への応答
こうしたホリスティックなものの見方やあり方を大切にすることは、以下のような課題意識へとつながっています。
【ホリスティックな教育/ケアを展開すること】
そのために―
こうした課題意識の根底には、教育やケアにおいて、「実践」と「理論」、「現実」と「理念」の間に感じられる断絶を架橋し、実りある対話を実現していきたいという思いがあります。
【ホリスティックな教育/ケア学の展開】
人間の生の営みにホリスティックなまなざしを向けるとき、不可分のものとして立ち現れてくる教育とケア。そこに見出されるホリスティックなアプローチを現代的な課題に応える「学」として展開していくために―
■ホリスティックな協働を目指して
本学会は、20 年に及ぶ日本ホリスティック教育協会の研究会員部門の活動を母体とし、これまでに探究してきた成果を、発展的に継承、更新していきます。
本学会では、ポストモダン以後の教育とケアという現代的な課題も意識しながら、各現場で聞こえる小さな声に耳をすませ、「対話」や多様な「つながり」へとやわらかく開かれた人間のありようにまなざしを向けることのできるホリスティックなアプローチの可能性を探求し、発信していきます。
2017年 6月 18日
日本ホリスティック教育/ケア学会創設大会参加者一同